研究概要 |
近年, マグロ養殖を目的にした新規参入が相次いでいる。参入側は利益追求を目的にする一方, 受け入れ側は資本立地による経済・雇用効果に期待する。本年度は, 資本参入が見られる鹿児島県甑島, 長崎県五島などを調査対象とした。資本参入が, 漁場利用へ与えた影響, 既存漁業との関係, 漁協経営への影響, 地域経済へのインパクトについて検証した。 その結果, 大手資本の立地によって, 漁業権行使料の支払い, 漁協事業の利用促進, 雇用機会の創出などの効果が発生していることが明らかとなった。事業赤字を抱える漁協にとって, 大手資本は欠くことのできない存在となっている実態が浮き彫りとなった。その反面, 漁場利用をめぐって既存漁業との軋轢が随所で発生するといった課題がある。こうした対立は「漁協経営のため」, 「地域経済のため」といった合い言葉のもとに調整され, 結果として大手資本の利用が優先されるケースが発生していることが明らかとなった。また, 漁協経営や地域経済においてマグロ養殖業の位置づけが高まる反面, マグロ養殖への依存体質が生まれつつある。漁協経営はマグロ養殖からの経済的効果によって事業収支の改善を見せるが, 漁協経営が抱える本質的な課題は解消されていない。漁場利用は経済効果の高い事業が優先され, 既存漁業の利用, 生産活動の持続性, 海洋環境との調和といった観点がやや軽視される傾向にある。「大手資本がマグロ養殖をやめて生産現場から撤退すれば, 生産地には何も残らなかった」といった危うい状況を孕みながら, 資本の誘致と参入とそれに伴う漁場利用の改変が進んでいるのが実情である。
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