研究概要 |
本年度は,長崎県五島・鷹島,鹿児島県奄美大島,甑島を対象に,大手資本の生産段階への参入が特定区画漁業権漁場の利用実態へ与えた影響について調査した。参入資本による漁協・地域への経済的効果が確認できた一方で,既存漁業との漁場利用競合が発生する実態が明らかになった。漁協経営や地域経済の改善が優先され,一部漁業者にとっては重要な生業の場である漁場を失わざるを得ないケースも明らかとなった。 また,漁業権行使の対価として支払う漁業権行使料についても課題の存在が浮き彫りとなった。参入資本からは,行使料の金額設定の根拠,行使料の対価としての漁協の役割などに対する不満の声があがっている。漁場管理に果たす漁協の役割・機能の再検討が必要であることが明らかとなった。 現行制度下では,漁場の管理主体は漁協であり,漁協が十分な役割・機能を果たすことが求められる。しかし,漁協の経営悪化を背景に人員削減と販売事業等の優先に力が注がれ,漁場利用管理機能を果たせていないケースも少なく,参入資本からは行使料支払いの根拠に対する疑問が投げかけられている。沿岸漁場に密着した存在は漁業者組織である漁協以外に存在せず,漁場利用調整・管理には漁協の本来的機能が不可欠である。昨今,漁協合併が各地で進められているが,単に規模拡大を図るだけではなく,漁場管理機能の強化に向けた組織体制づくりも今後の課題のひとつになろう。 なお本研究成果については2010年5月に開催される漁業経済学会シンポジウムにおいて報告する。
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