本研究の対象地である黄土高原は、中国内陸部に位置する半乾燥地であり砂漠化が問題となっており、長年に渡る森林伐採や不適切な土地利用により砂漠化が進行したと言われている。本研究では黄土高原の気候特性、植生分布、土壌侵食発生の程度を、気候学的アプローチ、人工衛星リモートセンシング技術、地理情報システム(GIS)を駆使してそれぞれ面的に評価する。これにより、まず黄土高原における各種植生の潜在的な分布域を示し、さらに気候、植生分布、土壌侵食の発生度合いの相互関係を明らかにする。植物の生育を制限するのは水分(乾燥)条件と温度条件である。本研究では乾燥条件を乾燥指数(AI)、温度条件を有効積算温度(WI)によって評価した。AIは降水量/可能蒸発散量で求められ、値が0に近いほど乾燥が強いことを示す。また、WIは作物栽培限界と言われる10℃を植物の活動温度域と見なし、10℃以上の日平均気温を積算した値である。使用したデータは黄土高原に位置する53地点の気象観測局における1971年から2000年までの30年間の日気象観測データである。 陜西省における森林、自然草地の存在する範囲のAI、WIの値を30秒メッシュ単位で推定した。中国科学院による自然林、天然草地の分布データと算出したAI、WIの空間分布とを比較すると、AIについては分布の中央値が、自然林では068、天然草地では0.52と差があった。他方、WIは森林が2851℃、草地が2857℃と差が見られなかった。すなわち、陜西省において植生が森林から草地(ステップ)に遷移するのは、乾燥度がAI=0.34〜0.58の地帯であることが示唆された。
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