黄土高原地域を対象として、数値標高モデル(DEM)から算出した地形因子を用いた解析から、月平均日降水量の平年値を推定する簡便な統計モデルについて検討を行った。その結果、次のことが明らかとなった。春季、秋季の降水は全球的な季節変化に対応しており、大規模なスケールの現象に支配されるが、夏季は局地的な対流性降雨が多く出現する。夏季にはベンガル湾付近からインド南西モンスーンによる流れがチベット高原、ヒマラヤ山脈から連なる山岳地帯の東縁を迂回して、黄土高原付近まで水蒸気を輪送しており、雨季の降水の元になっている。特に、春季から夏季にかけて平均標高が5000mに近いチベット高原を含む山岳地帯の加熱により大気中層が暖められると、大気下層では補償流として周辺から流れ込む空気が斜面上昇流となるため、黄土高原西側地帯に安定した降水をもたらしていると推察された。また、降水期間の長さは大規模なスケールの現象に支配されており、緯度の関数として近似することができ、地形因子解析の結果、北西から東方向に対しては近くに大きな山岳があるような地形条件が、逆に南西から南東方向に対しては開けた地形条件が、降水量が多くなる事が明らかとなった。こうした地形条件は、夏季の黄土高原に卓越するインド南西モンスーンに起因する水蒸気の流れが、流入し易くかつ力学的に上昇して降水となり易い条件であることが示唆された。
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