研究概要 |
高圧処理により誘起される形質転換を食品製造プロセスの前処理に利用し,さらに高圧処理食品を流通させる場合,高圧処理後の保存期間中における物性および特性,また食品の機能性を評価することが求められる.本研究では,高圧殺菌が期待できる圧力領域が,食品素材の機能性や特性に及ぼす影響を評価し,高圧処理を用いて食品素材に形質転換を誘起することにより,食品素材を高付加価値化することを目的とし,高圧処理を施した食品素材について内部構造の変化および機能性の変化(抗酸化性)を実験的に検討した. 食品素材として,タマネギ,カブおよび22時間吸水した大豆を選び,ピストン式高圧処理装置を用いて高圧処理(200MPa,20℃,5分)を施した.高圧処理後の試料は,ポリエチレンバックに減圧シールのうえ4℃または25℃で保存し,試料の内部構造に関して誘電特性の計測を行い,機能性に関しては抗酸化性を評価した.内部構造変化について,未処理試料ではCole-Cole円弧が確認されたのに対し,高圧処理を施したタマネギおよびカブではCole-Cole円弧が消失し,高圧処理大豆では未処理と比べCole-Cole円弧が小さくなり,高圧処理による細胞構造の部分的な破壊が示唆された.また,高圧処理を施し25℃で保存した試料について,タマネギでは抗酸化性が経時的に顕著に増加した.他方,未処理大豆では保存中に抗酸化性が減少したのに対し,高圧処理大豆ではわずかに抗酸化性が増加した.食品素材に高圧処理を施すことで,機能性を増強可能であることが示唆された. 以上の研究成果は,高圧処理により誘起される形質転換を食品製造プロセスの前処理に利用可能であるという知見を提供した点で重要であり,非加熱的に食品の機能性を向上させた点で意義がある.
|