合成開口レーダ(SAR)は天候に関係なく観測ができ、湛水域の抽出能力に優れている。本研究の目的は、国産衛星ALOS(「だいち」)に搭載された世界初となる衛星搭載型Lバンド多偏波SARセンサであるPALSARのデータを利用し、農地の中でも重要な水稲の作付面積を広域的に把握する上での問題点と有効性を明らかにすることである。 つくば周辺において、水田地帯2カ所、ハス田地帯1カ所の3カ所を対象地として設定しており、昨年同様に多時期のPALSARデータを収集するとともに、昨年、2時期だけ取得された全偏波観測のPALSARデータについては、位相情報を保持しているPALSAR Level 1.1のデータを取得し、ESAの開発したpolSARproを用いて解析を行った。 水稲の作付面積をSARを用いて把握するには、湛水面における鏡面反射の検出が必須となる。しかしながら、対象地付近に多く存在する芝畑においても湛水状態でないにもかかわらず鏡面散乱が起こっており、水田と芝畑との間に明確な差は見られなかった。これはPALSARが波長の長いLバンドを用いていることに起因する環象であり、湛水地以外も条件によっては湛水地として誤抽出する可能性があることが明らかになった。一方、全備波観測データを位相情報を加味した解析を行った結果、強度情報のみでは区別が困難であった転作ムギと移植して約1ヶ月経過した圃場が、エントロピー・ α角を用いた教師なし分類結果では多少違う傾向がみられ、分類の可能性がみられた。昨今問題が大きくなりつつあるコメ生産の場である水田面積の把握や、大規模洪水など湛水域に関わる環境の広域把握手法はますます重要度を増しており、今後もSARを用いた基礎的な知見を積み重ねていく必要性が高い。
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