合成開ロレーダ(SAR)は天候に関係なく観測ができ、湛水域の抽出能力に優れている。本研究の目的は、国産衛星ALOS(「だいち」)に搭載された世界初となる衛星搭載型Lバンド多偏波SARセンサであるPALSARのデータを利用し、農地の中でも重要な水稲の作付面積を広域的に把握する上での問題点と有効性を明らかにすることである。 研究対象地として設定していたつくば周辺の水田地帯について、航空写真および衛星画像をもとに圃場一筆一筆の区画をデジタイジングし、現地調査結果を格納したGISデータセットを整備完了した。さらに、時系列PALSARデータをアラスカ大学のソフトウェアMapReadyを用いて幾何補正を行い、両者を重ね合わせて解析可能なデータセットとした。このデータセットを用いて解析を行った結果、PALSARの後方散乱係数は水稲の栽培期間中に4~5dB程度の上昇がみられ、後方散乱係数と水稲の生長には相関が見られた。しかしながら圃場単位で見た場合、後方散乱係数のばらつきが大きいことから、この情報のみから水稲作付圃場の特定や生長量を単純に測定することは難しいことが明らかになった。 一方、全偏波データを用いた解析では、PALSARの分解能が低下することから、圃場一筆一筆という単位において関係性を見いだすのは困難であった。団地化した圃場群である場合、散乱成分分解や固有値解析などを行うことにより、水稲等の作付けの有無については判断できる可能性が示された。また、ほぼ同時期に取得されたRADARSA-2観測データとの比較を行い、波長の違いによって発生する散乱の違いについても初期的な結果をまとめた。 以上のことから、今後も、多波長多偏波SAR観測データを用いた基礎的な解析技術の開発の重要性が高い一方、食糧モニタリングなど農業環境の広域把握ツールとして利用してゆくための応用研究の重要性も高いといえる。
|