研究概要 |
はじめに実態調査として,放牧後に同一農家出身牛同士による親和グループを形成できない1頭預託牛を対象に,公共牧場に1頭で預託された育成牛の牛群への社会的同化過程を行動的,空間的に調べた。その結果,最近接個体となる相手牛の頭数が68頭いたにもかかわらず,有意に多く(P<0.05)観察された最近接個体の頭数は,放牧開始1ヵ月目,2ヵ月目,4ヵ月目ともに,わずか1頭だった。さらに,その相手牛は一定しなかった。以上より,放牧期間が限られる公共牧場において,1頭預託牛は,放牧期間中に放牧牛群へ社会的に同化することができないまま,下牧を迎えている可能性が示唆された。 また,ウシのモデル動物としてヒツジを用い,先住性と導入時のグループサイズが混群後の優劣順位と維持行動に及ぼす影響を調べた結果,優劣順位には導入群のサイズよりも先住性のほうがその効果は大きかった。また,摂食行動時間にはグループサイズと先住性との有意な交互作用が認められ(P<0.05),先住個体でグループサイズが犬きかったとき,維持行動の持続時間が最も長くなった。さらに,横臥行動時間にも導入するグループサイズ(P<0.05)と先住性(P<0.05)の有意な効果が認められ,先住個体が一貫して長くなった。以上より,新規個体導入に際し,導入する個体を事前に混群予定のパドックに導入することで,混群に伴う社会的ストレスを軽減できる可能性が示唆された。なお,当初計画していた感覚刺激遮断による親和関係維持に必要な刺激物質のスクリーニングまでには至らなかった。その原因として,刺激遮断方法が十分でなく,その手法を改良する必要が認められた。
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