研究概要 |
新規牛の導入は, 牛群内の探査行動や敵対行動を頻発させ, 社会的ストレスの長期化により, 家畜生産性を低下させることが知られている。牛群内の敵対行動を抑制し, 家畜生産性を維持するためには, 新規牛同乳牛との親和関係早期形成が重要である。これまでに新規個体導入時における社会的混乱の抑制を目的として, ウシでは夜間導入やブタでは嗅覚遮断薬の噴霧が試みられてきたが, いずれも成功していない。そこで20年度における本研究では, 行動的手法を用いることにより, 既存牛と新規牛との親和関係を早期に形成させ, 新規牛導入後の社会的混乱期間の短縮を目指した。 そこで, 実験的に事前の柵越し提示により新規牛を1頭で既存の牛群へ導入した。柵越し提示中, 新規牛と既存の牛群は柵越しにお互いの容姿, 臭い, 声を聞くことができ, 提示した1週間の間, 両者の間に社会的探査行動が認められた。そして, その結果, 提示牛は, 非提示牛と比べて, 導入直後の敵対行動を有意に軽減でき, 親和行動を有意に助長されたことから, わずか1週間の柵越し事前提示によって, 新規牛導入に伴う社会的混乱は軽減できることが示唆された。 さらに, 導入する新規牛の映像, あるいは, 新鮮尿を導入1週間前から継続的に提示した結果, 対照牛および視覚情報提示牛に比べ, 嗅覚情報提示牛の導入後に発生する敵対行動頻度が有意に減少したことから, 敵対行動を軽減させるために使われる第一義的な感覚は嗅覚である可能性が示唆された。
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