シバ(Zoysiaspp.)は日本を適応発散の中心とし、わが国における今後の飼料資源として重要な遺伝資源である。本研究はシバ属遺伝資源の利用拡大を目的として、わが国在来のシバ属野生系統における種の分化過程とその多様性を分子生態学的観点から明らかにしようとしたものである。本年度は、これまで収集したシバ属野生系統について、本草種の分類における指標形質の一つである葉構造の組織・形態学的特性を調査するとともに、DNAマーカーによる遺伝的特性の調査を行った。南西諸島を中心に9地点から収集したシバ属野生系統について、葉の構造(葉断面や葉鞘断片、葉芽構造など)および形態的特性の調査を行った結果、調査形質はおおむね種によって異なる特性を示した。しかしながら、一部の系統については中間的な形質を示すものも存在した。さらに、従来の研究成果をもとに、シバ属で高い多型性を示す10種類の核ゲノム由来マイクロサテライトマーカーを選抜し、各収集地における野生系統の遺伝子型の同定を行った。得られた結果をもとに多変量解析を行ったところ、それぞれの収集地において14-30系統の単一クローンが選抜された。現在、これらの選抜系統における収集地間の多様性評価をそれぞれの種において進めている。また、葉緑体ゲノム由来マイクロサテライトマーカーによる雑種集団の解析から、シバ葉緑体ゲノムは母性遺伝であることことが判明した。今後、選抜系統における葉緑体ゲノムの多様性評価を行い、葉の形態および核ゲノムの変異性を踏まえて、母集団の多様性を網羅する系統群の選抜を試みる。
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