研究概要 |
地球温暖化に対する懸念から新しいエネルギー生産技術として、微生物を利用した水素発酵が注目されている。水素は、燃料電池の燃料として利用した場合、水のみを発生するクリーンなエネルギー源である。牛糞は、発酵原料としての有機物を含有している。更に、牛糞には多種多様な水素生産細菌群が元々存在している。本課題は、その内在性水素生産細菌群に初めて着目・利用して、新しい水素発酵法の検討と菌叢解析を含む水素生産メカニズム解明が目的である。本年度は、牛糞に水などを一切添加せず低い水分状態でそのまま発酵させる、所謂、乾式発酵と呼ばれている方式での水素発酵を検討した。また、その発酵に関連した菌叢変移をDGGE(denaturing gradient gel electrophoresis)法で解析した。200gの無希釈牛糞(TS=15%)を625mLのガラス容器に投入して、ガス層を窒素に置換・密閉後、37℃から75℃で嫌気培養して水素発生量を定量した。その結果、牛糞乾式発酵の至適温度は60℃であることが分かった。その60℃乾式発酵の糞から水溶性副産物を抽出し、それをガスクロで解析した。その結果、60℃牛糞乾式発酵の水溶性副産物として主に酢酸と酪酸が生成されていた。60℃発酵後と発酵前の牛糞からDNAを抽出して、一般細菌用のプライマー(GC-357F,517R)を用いて16S遺伝子のV3領域をPCR増幅した。そのPCR産物をDGGE法で解析した。その結果、水素生産菌であるClostridium cellulosiに類似した細菌が検出され、水素生産に関与する可能性が示唆された。Colstridium cellulosiは、その名の様にセルロースを分解して生育する嫌気性好熱細菌である。従って、その検出された細菌は、牛糞中の繊維分を分解して水素を発生させていると考えられる。また、本乾式発酵は繊維分解の結果、固形分が低減され牛糞処理にも貢献できると期待される。
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