本研究の目的は、乳腺組織において時期特異的に発現するmiRNAを同定し、ターゲット遺伝子群を明らかにすることで、乳腺分化機構の理解を深めることである。本年度の成果として以下に報告する。 1. 乳腺分化誘導前後においてmiRNAマイクロアレイを行い、分化に関与する候補miRNAを得た。 2. 上記候補miRNAについて、リアルタイムPCRを用いて絞り込みを行った結果、分化誘導に伴いmir-10la、mir-141およびmir-200aの発現が上昇することが明らかとなった。 3. 上記3種のmiRNAについて、ノックダウンおよび強制発現を行った結果、mir-101aのみ乳腺分化に影響を及ぼした。すなわち、乳腺細胞においてmir-101aをノックダウンさせると分化マーカーであるカゼインmRNAの発現上昇が見られ、逆に強制発現させると発現が低下した。これは、分化時に上昇するmir-101aは細胞分化に抑制的に働く可能性を示唆している。現在、そのメカニズム機構について解析を進めている。 4. 一方、乳腺分化にはmRNA結合タンパクAUF1が関与することを明らかにした。ホルモン刺激によりAUF1タンパクの局在が細胞質から核に変化し、この変化をノックダウン法で再現すると乳腺分化が促進された。また、AUF1はc-myc mRNAの安定化に関与することを明らかにした。すなわちAUF1は、c-mycを制御することで細胞増殖および分化調節に重要な役割を担う。 本研究により、乳腺分化過程において、転写後調節に関わるmiRMAやAUF1といった新しいプレイヤーの存在が明らかとなった。今後より詳細な解析を行い、新しいメカニズムを提唱していく。
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