食虫目の実験動物であるスンクス(Suncus murinus)は妊娠中期(妊娠期間約30日)になるまでプロゲステロンは非妊娠状態と同等の低レベルを保ち、着床前の妊娠5日に卵巣除去を行っても、その後の全妊娠期間においていがなるステロイドホルモンを投与することなく妊娠が継続され、産仔が得られることが報告されている唯一の哺乳類である。着床や妊娠に必須であるステロイドホルモンがスンクスの妊娠維持機構にどのように働いているかは全く明らかにされておらず、これらを解明することで未だ不明な部分が多く残されている哺乳類の着床や妊娠における制御機構の解明に役立つと考えられる。本年度はスンクスの妊娠初期におけるステロイドホルモンの影響を調べた。プロゲステロン受容体拮抗剤(RU486) を着床日前後で投与すると、妊娠は継続しなかった。また着床日前(3日) に卵巣除去を施し、着床日(7日) までエストロゲンを連続投与したところ、妊娠が継続し産仔を得られた。これらよりスンクスでは非妊娠時と同等の低濃度のプロゲステロン濃度で初期の妊娠維持が可能であることが明らかとなった。スンクス子宮における着床因子の発現を調べたところ、哺乳類の着床因子の1つとして明らかにされている白血病阻止因子(Leukemia Inhibitory Factor : LIF) がスンクス子宮においても着床日に発現し、スンクスの着床にもLIFが関与していることが考えられた。マウスやラットにおいてはLIFがエストロゲンの一過性上昇によって誘導されることがわかっているが、スンクスの妊娠期間におけるエストロゲン濃度の推移は今のところ不明であり、現在スンクスにおけるエストロゲンのアッセイ系を確立中である。
|