PSPタンパク質の細胞内局在の分子機序を明らかにするため、N末端もしくはC末端を欠失した変異PSPにGFPを融合して細胞で発現させた。しかし、発現が認められるのはごく一部の細胞であり、その細胞の形態も一様でないことから、PSPタンパク質の過剰発現による細胞毒性が強く、同方法では細胞内局在の検討が困難であることがわかった。一方、培養細胞中に発現するPSPタンパク質を精製した。肝臓から精製したPSPタンパク質と比較した結果、肝臓中PSPが3量体を形成しているのに対して培養細胞中PSPは単量体であることが、ゲル濾過クロマトグラフィーで明らかにし、PSPタンパク質はin vitroとin vivoで高次構造が異なることが明らかになった。さらに培養細胞から精製したPSPの円偏光2色性測定を行なったところ、極微量の肝臓細胞質画分を添加することで、スペクトルの変化が起こることを見いだした。恐らく、肝臓細胞質に含まれる分子によって培養細胞から精製したPSPの構造変化が起こったと推測される。肝臓から精製されたPSPタンパク質の高次構造はスクレイピー型プリオンタンパク質と非常に類似している。プリオンタンパク質が正常型からスクレイピー型に変化するようにPSPも高次構造の変化が起こる可能性がある。 PSPに対する抗体をこれまでの実験で使い切ったため、新たにリコンビナントPSPを抗原としてウサギ抗PSP血清を作製した。(作製当時はリコンビナントPSPが肝臓中PSPの高次構造と異なることは不明であった)新しく作製した抗血清は、培養細胞中のPSPとの交差性が非常に低かった。Yeast two hybrid systemによって明らかになっているPSPと相互作用する分子を、培養細胞内で発現させて免疫沈降法での検討を試みた。しかし、いずれの分子もPSPタンパク質との相互作用を見いだせなかった。新たに作製した抗PSP血清の交差性が低いことが問題であると推測される。
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