本研究では、計算科学的手法を用いて、インフルエンザウイルスの抗原変異に伴う抗原構造の変遷をアミノ酸変化と立体構造の変化から明らかにすることを目的とし、以下の研究を遂行した。 (1)アミノ酸変異履歴の作成 (1)DB解析によるアミノ酸変異履歴の作成 人インフルエンザウイルスHIN1、H2N2、H3N2が、人の間で流行を始めてから、抗原変異に伴ってどのようにアミノ酸変化を遂げてきたのかを調べた。 (2)変異株のHA蛋白質の構造構築 ホモロジーモデリング法を用いて、それらの変異株のHA蛋白質構造を構築した。 (2)抗原変異に伴う抗原構造の経時変化 (1)ホモロジーモデルに対する静電ポテンシャル計算 変異によるHAの荷電状態の変遷を調べるため、作成したホモロジーモデルに対して、ボアソンボルツマン方程式により、静電ポテンシャル計算を行った。 (2)配列解析による等電点計算 HA蛋白質全体の電荷の変遷を調べるため、全配列について網羅的に等電点計算を行った。 (3)抗原変異に伴う糖鎖付加パターンの抽出 インフルエンザウイルスは糖鎖(N-グリカン)を獲得する変異によって、抗原構造を効率よく変化させ、宿主の免疫圧を回避していることが知られているが、ここでは抗原変異に伴う糖鎖付加のパターンを調べた。 (1)配列解析による糖鎖付加部位の変遷履歴の作成 抗原変異に伴って、N-結合型糖鎖付加モチーフ(Asn-X-Ser/Thr)がどのように変遷して来たのかを塩基配列から抽出し、糖鎖付加部位の変遷を時系列図で表す(この解析は現在も進行中である)。
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