ヒトの多包性エキノコックス症は、多包条虫の幼虫(多包虫)寄生を原因とする人獣共通寄生虫感染症である。多包性エキノコックス症は肝臓などで多包虫が悪性腫瘍状の病巣を形成することで発症するが、現在は病巣を外科的に切除摘出する以外に確実な治療法はない。そのため、侵襲が少なく体に負担が少ない治療法を新しく開発することが必要である。近年、抗体分子そのものを感染症やがんの予防や治療に役立てる研究が進められており、一部は既に「抗体医薬」として実用化されている。本研究では、多包性エキノコックス症の感染予防や治療に有用な「抗体医薬」の候補となる抗体の遺伝子を探索することを目的とする。 平成20年度は、「抗体医薬」の候補となる抗体の遺伝子探索の基礎とするために、多包虫に対する抗体の可変領域遺伝子のcDNAライブラリーより得られた組換え抗体が認識する抗原の性状解析を行った。多包虫に感染させたC57BL/10マウスの脾臓を摘出してリンパ球を含む細胞成分を回収し、RNAを抽出した。IgG抗体の可変領域の遺伝子をRT-PCR法で増幅し、蛋白質発現用プラスミドベクターに組み込み、大腸菌に形質転換して組換え抗体蛋白質を発現させた。多包虫組織より抽出した抗原溶液に得られた各種組換え抗体を加えて免疫沈降を行い、組換え抗体に反応する抗原のみを抽出して電気泳動し、解析を加えた。その結果、現在ヒトの多包性エキノコックス症の診断用抗原として使われている蛋白質と分子量が近い成分を認識すると考えられる組換え抗体が確認された。これらの組換え抗体は今後の研究を進める上で有効利用できると考えられる。
|