多包性エキノコックス症は多包条虫の幼虫(多包虫)寄生を原因とする人獣共通寄生虫感染症であり、現在は病巣を外科的に切除摘出する以外に確実な治療法はない。近年、抗体分子そのものを感染症やがんの予防や治療に役立てる研究が進められており、一部は既に「抗体医薬」として実用化されている。また、多包性エキノコックス症の基礎的研究や検査法の改良においても、多包虫由来の各種抗原に反応するモノクローナル抗体は重要なツールとなりうる。本研究では、多包虫抗原を認識するモノクローナル抗体を作製し、多包性エキノコックス症の感染予防や治療に有用な「抗体医薬」の候補を探索することを目的とした。 平成21年度は、「抗体医薬」の候補となる抗体の遺伝子探索のために、多包虫に対する抗体の可変領域遺伝子のcDNAライブラリーより組換え抗体を作製し、性状解析を行った。多包虫に感染させたC57BL/10マウスから得られた抗体遺伝子cDNAライブラリーより、組換えモノクローナル抗体蛋白質を発現させて、多包虫由来の各種抗原との反応がみられる組換えモノクローナル抗体を選別した。その結果、現在ヒトの多包性エキノコックス症の診断用抗原として使われている蛋白質を認識する組換えモノクローナル抗体が4種類確認された。今回の研究では、当初の目的であった多包性エキノコックス症に対する「抗体医薬」の開発には至らなかったが、得られたcDNAライブラリーおよび組換えモノクローナル抗体は多包性エキノコックス症の研究を今後進める上で有効利用できると考えられる。
|