昨年度からC57BL/6マウスを用いて、マウスの小腸、大腸における腸上皮細胞間リンパ球(IEL)分布の加齢性変化について調べてきた。本年度に調べた18ヶ月齢マウスでは、IEL subset分布については若齢マウスと同様の傾向を示したものの、IEL数は12ヶ月齢マウスに引き続き、減少傾向が認められ、腸管免疫系に老化が起こることが示唆された。今後、24ヶ月齢マウスにおいて、腸管免疫系の老化についてさらに検討する予定である。また、BALB/cマウス(若齢)の小腸、大腸においてもIEL分布の部位差はC57BL/6マウスとほぼ同様の傾向を示していた。ただし、CD8αβ+のγδT細胞subsetはC57BL/6マウスに特異的に見られる等、個々のsubsetの構成比率はマウスの系統により若干異なっていた。 本年度はマウス小腸のパイエル板の部位差について、DNAマイクロアレイを用いた解析を行った。マウス小腸の最も幽門側(上部)、最も回盲部側(下部)、そして最も中間点に近い(中部)パイエル板を分離し、その遺伝子発現を網羅的に調べ、比較したところ、その発現の差が2倍以上で、統計学的な有意差が認められたのは169スポット(約37000スポット中)であった。発現に違いが見られたスポットは、代謝系や輸送系のタンパク関連遺伝子が中心であり、免疫関連の遺伝子にはほとんど発現の差は認められなかったことから、パイエル板は部位により免疫機能にそれほど差がないと考えられた。このことは、腸内細菌叢等を含めた場内環境が小腸の部位によって大きく異なること、および、IELのsubset構成が小腸の部位により著しく異なることと合わせて考えると、非常に興味深い知見であると思われた。
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