研究概要 |
脳炎フラビウイルスの病原性発現機序に関わる要因を明らかにするために、ダニ媒介性脳炎ウイルスをマウスに感染させたモデルを用いた解析を行った。 接種量を変えてマウスに皮下接種したところ,10^2PFU接種量以上のすべてのマウスで発症がみられすべてのマウスの脳からウイルスが検出された。ところが,致死性は接種量に依存せず10^2-10^6PFU接種では40-60%,10^7PFU以上では80-90%の致死率であった。これらの結果からマウスが死に至る過程で病原性発現には少なくても2つの異なる機序が関与していることが示唆された。 10^7PFU以上の皮下接種マウスは感染後7〜10日の早い時期に死にはじめ,脳でのウイルス増殖のピークと死の時期が重なった。脳・脊髄でのウイルス増殖は10^2-10^6PFU接種の場合より高く,さらに早い時期に大脳皮質の広範囲の神経細胞にウイルス感染がみられたことから,急性の脳炎,特に直接のウイルス感染による神経系のダメージが致死性の原因であることが考えられた。 一方,10^2-10^6PFUの皮下接種マウスは感染後12日目以降の遅い時期に死に始めた。その際,脳・脊髄でのウイルス増殖のピークは感染後7-9日目であったため,神経系からウイルスが排除されはじめた後に致死性を示すことが明らかになった。したがって,神経細胞へのウイルス感染が直接の致死性の原因ではないと考えられた。 脳炎フラビウイルスはマウスモデルにおいて致死性が接種量に依存せずLD_50を計算することができないことが1930年代から知られている。ところがその理由は明確に説明がなされていない。本研究で明らかとなった2つの異なる病原性の発現機序は他の脳炎フラビウイルスでも同様にみられると考えられ,致死性が接種量に依存しない機序の解明に役立つものと思われる
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