ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)の致死性に関わる病原性発現機序についてマウスモデルを用いた解析を行った。TBEV Oshima株をマウスに皮下感染させると10^2 PFU以上接種のすべてのマウスで発症・ウイルスの神経組織への侵襲がみられた。ところが、そのうち一部のマウスは回復して生き残ったため、必ずしも神経組織侵襲性は致死性の指標とならないことが示された。さらに詳細を調べると、高接種量(10^7 PFU)ではすべての個体で中枢神経系へのウイルス侵襲とそれに伴う炎症反応、神経症状がみられ、致死率は90%であった。マウスは感染後7日日から死にはじめ、中枢神経組織全体にわたる神経細胞へのウイルス感染が直接の致死性の原因であると考えられた。一方、低接種量(10^3 PFU)でもすべての個体で中枢神経系へのウイルス侵襲がみられたが、マウスが死ぬのは感染後12日目以降で、致死率は40%であった。中枢神経系でのウイルス感染は早い時期では大脳皮質、遅い時期では小脳で多くみられたが、致死個体だけでなく回復個体でも同程度のウイルス感染がみられた。さらに、脳内の浸潤炎症性細胞数、主な炎症性サイトカインの発現量は致死個体と回復個体で有意な差はなかった。一方、致死個体では血清中のコルチコステロン量とTNF-α量が回復個体にくらべ有意に上昇していたため、致死性には脳炎に加えて全身性の特異的な炎症反応とストレス応答が関わっていることが示唆された。
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