本研究の目的はリウマチ性疾患・腫瘍性疾患など全身性慢性疾患において高頻度に発症する非再生性の貧血ACD(Anemia of chronic diseases)発症機序ついて、申請者のこれまでの研究より得られた知見「赤芽球分化に必須な転写因子GATA-1に制御される赤芽球系特異的遺伝子の発現がIL-6により抑制される」という現象を中心にその分子機構を解明することである。本年度は炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1β、TNFα)受容から赤芽球系特異的遺伝子の発現抑制に至るまでの細胞内情報伝達経路の解析し、関連伝達因子および標的遺伝子の同定を行った。 赤芽球系前駆細胞モデルであるMELhide8細胞を用いて、炎症性サイトカインの受容により遺伝子発現を阻害される赤芽球特異的遺伝子を解析し、GATA-1に転写調節されるα-ヘモグロビン安定化蛋白質(AHSP)の遺伝子発現がIL-6により抑制されること、その他グロビン群遺伝子の発現も影響を受けることを明らかにした。またMELhide8細胞においてIL-6シグナルにより細胞内情報伝達分子STAT3が活性化することが判明した。さらにSTAT3ドミナントネガティブ変異体をMELhide8細胞に導入するとIL-6シグナルによるAHSP遺伝子発現抑制効果が減少した。これよりACD発症機序には、炎症性サイトカインIL-6がシグナル伝達物質STAT3を介して赤芽球特異的遺伝子の転写を抑制することが示唆された。
|