本研究はリウマチ性疾患・腫瘍性疾患など全身性慢性疾患において高頻度に発症する非再生性の貧血ACD(Anemia of chronic diseases)発症機序ついて、とくに「赤芽球分化に必須な転写因子GATA-1に制御される赤芽球系特異的遺伝子の発現が炎症性サイトカインIL-6により抑制される」という現象を中心に、その分子機構について解析してきた。GATA-1に転写調節される赤芽球系特異的分子α-ヘモグロビン安定化蛋白質(AHSP)を標的遺伝子として、本年度は、赤芽球系前駆細胞モデルであるMELhipod8細胞(JJVR.56.2008.75-84)を用いて、細胞内情報伝達経路の解析および関連伝達因子および標的遺伝子の同定を行った。 IL-6により細胞内情報伝達経路であるJAK/STAT3経路が活性化することが前年度で得られたことから、STAT3ドミナントネガティブ変異体(STAT3-Y705F)をMELhipod8細胞に導入し、IL-6によるAHsP遺伝子発現抑制効果を観察した。その結果、STAT3-Y705F導入MELhipod8細胞ではIL-6受容後、内在性STAT3のリン酸化が阻害され、STAT3の核内移行が抑制され、AHSP遺伝子発現抑制が解除された。しかしAHSPの転写因子であるGATA-1の蛋白質量はIL-6によって影響されなかった。これよりACD発症機序には、炎症性サイトカインIL-6がシグナル伝達物質STAT3を介して赤芽球特異的遺伝子の転写を抑制することが示唆された。
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