イヌ子宮蓄膿症の発生機構を解明するため、感染防御因子の一つであるToll-likeレセプター(TLR)とそれに関連する因子のイヌ子宮における発現について検討した。本年度はTLR5と9のイヌ子宮における発情周期中の発現動態を調べるとともに、TLRのシグナル伝達経路に関わる物質の発情周期中の発現動態を調べた。まずTLR5および9mRNA発現量の発情周期中変化を検討したところ、両者は発情周期中にほとんど変化はなかった。次にTLRの下流シグナル蛋白質であるMyd88、NFκBの発情周期各期におけるmRNA発現量を検討したところ、これらにも発情周期中でほとんど変化はなかった。さらに、TLR刺激により最終的に生成されるサイトカインであるIL-6とIL-8にも発情周期中に変化はなかった。一方、卵巣に黄体あるいは卵胞のあるイヌの子宮内膜培養組織に、TLR4刺激物質であるLPSとその他のTLRも刺激すると考えられる大腸菌死菌を添加し培養したところ、卵胞のあるイヌ子宮内膜ではLPS刺激によりIL-6mRNA発現量が、大腸菌死菌刺激ではIL-8mRNA発現量が増加する傾向が見られた。以上の結果より、TLRとその関連因子は性ホルモンの影響をほとんど受けず発情周期に伴うmRNA発現量にはほとんど変化がないが、細菌刺激に対する防御反応は発情周期により異なり、特に発情の時期にサイトカインの産生能が高い可能性が示唆された。今回の結果はイヌ子宮蓄膿症の発生機構のみならず動物の生殖器感染に対する発情(性)周期中の感染防御能の変化を考える上で有意義な知見となりうる。
|