ヒトやマウスの癌幹細胞は細胞表面マーカーや細胞学的性質を利用して同定されているが、犬や猫では癌幹細胞は同定されていない。本研究の目的は、犬や猫の乳腺腫瘍から乳癌幹細胞を同定し、それらの機能解析、すなわち乳癌幹細胞の幹細胞性維持および腫瘍形成能を解析することである。本年度得られた知見は以下のとおりである。 1)臨床症例から採取された試料を用いて癌幹細胞に特有な増殖様式である浮遊細胞塊の形成を検証した。犬の乳癌試料から浮遊細胞塊の形成が認められ、犬の乳癌幹細胞の存在が示唆された。一方、対照群では観察されなかった。 2)犬および猫の乳腺腫瘍細胞株の浮遊細胞塊形成能を検討し、いずれの動物種においても浮遊細胞塊が認められた。浮遊細胞塊のRT-PCRを実施し、幹細胞に高発現する遺伝子の発現解析を進めている。 3)臨床症例から採取された試料、乳腺腫瘍細胞株、それらから形成される浮遊細胞塊を用いて抗CD55抗体、抗CD44抗体および抗CD24抗体によるフローサイトメトリー解析を行い、各細胞分画の分布を詳細に解析した。すべて試料においてCD55+細胞が数%認められ、その中にはCD44+CD24-細胞も多く見られた。 4)上記で同定した各細胞分画をセルソーターにより分取し、免疫不全マウスに移植し、腫瘍形成能を解析している。各細胞集団における腫瘍形成能を比較検討する。またin vitro試験におけるそれらの細胞群の機能解析も進めている。
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