ヒト乳癌では、自己複製能かつ高い腫瘍形成能を有する乳癌幹細胞が存在し、乳癌幹細胞とそれから生じる乳癌細胞の不均一な細胞集団から構成されている。また癌幹細胞は癌形成に加え、癌の進展、再発、転移においてもキープレーヤーとして機能している。獣医学領域では癌幹細胞研究は緒に就いたばかりであり、本研究では、獣医診療の中心となる犬および猫に自然発生する乳癌に着目し、乳癌発症機構の解明を目指し、それらの乳癌幹細胞の同定、細胞生物学的特性を解析した。犬乳癌細胞株および猫乳癌細胞株を用いたフローサイトメトリー解析および細胞培養により、乳癌幹細胞が濃縮されるside population(SP)細胞、浮遊細胞塊および乳癌幹細胞CD44(+)CD24(-)細胞集団を同定した。特に、犬乳癌細胞株CHMp由来の浮遊細胞塊を中心に、RT-PCR解析、ヌードマウスへの皮下移植による腫瘍形成能解析を行った。CHMp浮遊細胞塊は、対照群(CHMp親細胞株)と比較して、乳癌幹細胞マーカーCD44(+)CD24(-)細胞を高い割合で含有し、未分化関連遺伝子CD133、MDR、CD34、SOX2、NOTCHおよびGli-1を高発現していた。浮遊細胞塊の腫瘍形成能解析では、浮遊細胞塊は対照群と比較して腫瘍形成能が高い傾向が見られ、さらに高い増殖活性を示した。浮遊細胞塊から形成された腫瘍の再浮遊細胞塊形成能では、浮遊細胞塊を形成する細胞の存在が示された。さらに浮遊細胞塊の継代移植による再腫瘍形成能も認められた。いずれも形成された腫瘍は元の病理組織像とほぼ一致していた。これらの結果から、株化した犬乳癌細胞においても乳癌幹細胞およびそれらを頂点とする階層構造が存在する可能性が示唆された。
|