ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)やテトラブロモビスフェノールA (TBBPA)は近年使用量が増大している臭素系難燃剤である。HBCDsについては、残留性等の観点から化審法第1種監視化学物質に指定され、モニタリングが求められている。また、TBBPAは甲状腺ホルモン輸送タンパクへの結合親和性が高いなど、種々の毒性が指摘されている。しかしながら、これらの物質による環境・生態系汚染の実態は国内では全く把握されておらず、世界的にも汚染の歴史変遷や詳細な生物蓄積特性に関する情報は極めて限られる。今年度は、既に確立したHBCDsの分析法を環境・生物試料に適用して広域モニタリングを実施するとともに、TBBPAについても同時に検出可能な手法への発展を目指した。 試料の精製・分画法を改良することで、HBCDsとTBBPAを高速液体クロマトグラフータンデム質量分析計(LC-MS-MS)で同時に検出可能な分析法を開発した。しかしながら、TBBPAについては、操作ブランクや安定性の問題が残るため、次年度に分析法のバリデーションを実施予定である。愛媛大学沿岸環境科学研究センターの生物環境試料バンク(es-BANK)に保存されている海棲哺乳類の保存試料を用いて、HBCDsによる汚染の歴史変遷を解析した。その結果、アジア途上国では既存の臭素系難燃剤であるPBDEsの汚染が顕著であったのに対して、HBCDs汚染レベルは未だそれほど進行していないことが分かった。それに対して、日本沿岸で採取された種からは、高濃度のHBCDsが検出され、日本国内での大量使用を反映した結果を得た。
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