研究概要 |
有機金属試薬の持つ反応選択性(官能基選択性や位置・立体選択性など)の制御は効率的な有機合成反応を考える上で最も大事な要素の一つです。しかし、反応選択性が生じる起源(相互作用)の詳細には不明な点が多く残されています。従って、この多核金属試薬の持つ反応性の違いの起源を明らかにできれば、あらゆる副反応を抑えて望みの反応選択性だけを示す試薬の設計・開発が可能になると期待できます。こうした考えのもとに本研究課題において私は、理論化学計算および実験化学的手法を用いて「金属アート型塩基の持つ反応選択性の起源の解明と機能性芳香族構築化学への展開」を行います。平成19年度において私は、X線,DFT計算を用いた直接観測や計算化学的手法により、アルミニウムアート型塩基・反応中間体の構造と、反応メカニズムの解明に取り組みました。その結果アルミニウムアート型塩基が官能基を有する芳香族化合物に対して、効率的に水素引き抜き反応を進行させる理由が、類似の亜鉛錯体(TMP-zincate)と同様に高い反応性と自由度を持つ窒素リガンドの性質に起因していることを明らかにしました。さらに、予想外なことにアルミニウムアート型塩基はそのメタル化後の反応経路において亜鉛アート型塩基とは全く異なる反応性を示し、その結果生成している真の中間体がそれぞれ異なる種類の中間体を与えていることが明らかとなりました。この実験結果により、金属(アルミニウムか亜鉛か)を使い分けることによって、それぞれ速度論的に制御された中間体、熱力学的に最も安定な中間体の両方の発生と制御が可能になることが示唆されました。 また、これらの研究で得られた反応選択性に関する知見および概念をフォスファゼン塩基化学に適用して検討を行ったところ、新しい複素芳香環構築法および不斉反応の開拓への糸口が示されました。
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