本研究では、我々が海洋生物の二次代謝産物より見いだした、強力かつ選択的な血管新生阻害活性を示す二種の生物活性天然物について全合成研究を行い、効率的かつ実用的な合成手法の確立を目指すとともに、その構造をモチーフとして、より短工程で合成可能な活性リード化合物を設計・合成するなど、血管新生を標的とする新規な抗がん剤シーズの創製を指向した創薬化学的研究を目的としている。今年度は以下の成果を得た。(1)イソキノリン側鎖を有する新規ステロイドアルカロイドcortistatin Aの全合成研究に着手し、Johnson-Claisen転位反応による不斉転写および分子内Michael-aldol反応を鍵としてイソキノリン側鎖を有するCD環フラグメントの立体選択的な合成に成功した。また、(-)-キナ酸を出発物質として合成したA環フラグメントとのカップリングに成功するとともに、鍵となるB環構築を検討し、全合成達成に向けた知見を得た。(2)Cortistatin Aをシーズとする活性リード化合物の創製を目指し、単純なステロイド骨格にイソキノリン側鎖を導入したアナログ化合物を設計・合成した。また、得られた化合物が良好な血管新生阻害作用を示すことを明らかにした。(3)Globostenatic acid X methyl esterの合成研究の一環として、活性発現に重要な共役オレフィン側鎖を含むBC環モデル化合物の合成を行い、イノラートアニオンによる立体選択的オレフィン導入を鍵工程とした効率的な合成法を開発した。合成した数種の化合物の活性評価によって、共役オレフィン側鎖だけでなく、母核部分も活性発現に関与していることを明らかにした。
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