植物培養細胞に潜在する光学分割能力の解明を図ることは、生体触媒化学の発展に寄与するのみならず、その能力を医薬品開発へ活用する有機合成化学への生体触媒の応用研究に貢献が可能な、意義ある研究といえる。今年度は、植物培養細胞から植物グリコシルトランスフェラーゼ(キシロシルトランスフェラーゼ)を単離精製し、ラセミ混合物として合成される医薬品の光学分割により、医薬品の品質向上を図ることを目的とした基礎的研究を行った。植物培養細胞を摩砕して得た無細胞抽出液を、ベンジルアルコール配糖体への触媒作用を指標として、イオン交換カラム、グリーンアフィニティーカラム、ゲルろ過カラムを使用する各種のクロマトグラフィーにより精製し、キシロシルトランスフェラーゼを得た。基質として、薬理活性を持つ医薬品成分に関連のあるフェニルアルキルアルコールのラセミ体の配糖体を選び、キシロシルトランスフェラーゼによるフェニルアルキルアルコールの光学純度の向上を試みた。キシロシルトランスフェラーゼの立体選択性については、グリコシル化反応を利用してフェニルアルキルアルコール配糖体への酵素触媒を作用させ、得られる生成物の核磁気共鳴スペクトルを利用した解析を行うことにより、グルコシドアグリコン部位の選択性を調べ、キシロシルトランスフェラーゼのフェニルアルキルアルコール配糖体の光学分割作用の解明を行った。その結果、今回単離したキシロシルトランスフェラーゼは、(R)-体のフェニルアルキルアルコール配糖体のみをプリメベロシド二糖配糖体に変換し、未反応の(S)-体のフェニルアルキルアルコール配糖体へ分割する能力があることが分かり、本酵素は、フェニルアルキルアルコールラセミ体混合物の配糖体を基質とする光学分割の有効な生体触媒となることが明らかになった。
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