アルキニル化反応は、その有機合成化学上の有用性から近年盛んに研究されている。すなわち、炭素-炭素三重結合は水素添加によってアルカン、アルケンへと変換可能なだけではなく、遷移金属を用いる様々な反応を利用して構造修飾を行うことができるためである。本研究の特色は、有機リチウム反応剤を求核剤とした反応の開発にある。有機ホウ素反応剤、有機亜鉛反応剤、有機マグネシウム反応剤、有機触媒を用いた不斉反応の例は多数報告されているが、それに比して有機合成において汎用される有機リチウム反応剤を用いた不斉反応の例はわずかしかない。有機リチウム試薬を求核剤とした触媒的不斉反応に限ればなお少なくなる。有機リチウム試薬の反応性の高さ故である。本研究で特筆すべきは、リチウムアセチリドは反応性が比較的低く触媒反応へと展開できる可能性を秘めていることである。また、様々変換が可能であるアセチレンを用いた反応の開発とその不斉化は汎用性が高くかつ有用な骨格構築法となり、有機合成化学の新たな可能性を広げるものになると信じている。本研究では、ニトロアルケンをはじめとするマイケルアクセプターを求電子剤とした触媒的不斉アルキニル化反応の開発を行う。不斉配位子-メタルアセチリドアート型錯体を再生可能とする不斉触媒型反応の開拓を目指した。現在までに以下の点が明らかになっている。1、リチウムアセチリド種は-60℃付近ではトルエンなどの非極性溶媒に溶けにくいが、TMEDAなどの添加物を加えることで溶解し、低温下でもゆっくりとマイケルアクセプターとの反応が進行した。2、その一方で、(-)-スパルテインを加える条件下では、トルエン中とTHF中では収率の大きな違いが見られた。3、リチウムアセチリドの活性化法かつ不斉発現法として良く知られているキラルリチウムアルコキシド添加による反応では、ニトロアルケンを基質とした場合、低い不斉収率しか得られなかった。
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