昨年度おこなった3αヒドロキシステロイド脱水素酵素の分子動力学計算により、補酵素(NADH)結合と非結合状態の比較から酵素の構造変化を捉えた。またこの構造変化に重要な役割を担っていると考えるいくつかのアミノ酸候補を見出した。本年度はこれらのアミノ酸候補の変異体を作成し、補酵素結合や構造変化にどのような影響があるかを調べた。それぞれの変異体の大量培養と精製系を構築後、円二色性スペクトルや蛍光測定から酵素の構造変化、活性を測定した。その結果、4種作成した変異体のうち、T177A変異体はNADH結合によるヘリックス誘起能や酵素活性が著しく減少していることを明らかにした。さらにこのT177A変異体は野生型においてみられた補酵素結合の負の協同性を失っていることも確かめた。この酵素の反応機構は補酵素が酵素にまず結合し、ヘリックス誘起の構造変化を引き起こし基質のためのポケット構造を作る。その後、基質がポケットに取り込まれ脱水素反応が起こった後リリースされると考えられている。Thr177は触媒残基ではないので、この過程の初期段階のヘリックス誘導を制御する重要なアミノ酸だと考えている。この変異体の酵素活性が落ちたことは初期段階のヘリックス誘起が酵素反応に大きく寄与していることも示唆している。このように本年度では、脱水素酵素の反応機構を明らかにするために有用な変異体T177Aを見出した。今後はこの変異体や補酵素NADとの複合体構造を解析し、この酵素反応を段階的に明らかにして行きたいと考えている。
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