潰瘍性大腸炎やクローン病は代表的な炎症性腸疾患で国内の患者数は漸増している。前年度までに、潰瘍性大腸炎モデル動物で、オーバーハウザーMRIを用いて細胞内と外でのフリーラジカル動態をリアルタイムで検討する手法を確立した。しかし、フリーラジカル生成における免疫系バランス異常や炎症性細胞浸潤の関与が示唆されているが、詳細は不明である。 そこで本研究では、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎モデル動物において、OMRI同時分離画像化法と組織学的手法、分子生物学的手法を併用し、病態の発症から進展に至るまでの一連の過程における活性酸素・活性窒素動態を検討した。 大腸炎の肉眼的・組織学的傷害がまだ観察されないDSS処置3日群では、直腸上皮細胞内でのみOMRI画像輝度の減少が認められ、その減少は膜透過性抗酸化剤DMSOのニトロキシルプローブとの同時投与や誘導型NOS(iNOS)阻害剤aminoguanidineの前処置により完全に抑制された。血便が現れ始め、直腸付近の上皮欠落が認められるDSS5日群では、結腸下部と直腸の上皮細胞内でOMRI画像輝度の減少が認められ、その減少はDMSOやaminoguanidineにより抑制された。著しい貧血や血便が観察され、大腸全体の上皮欠落、炎症性細胞の粘膜内浸潤が認められるDSS7日群では、大腸上皮の細胞内のみでなく細胞外でもOMRI画像輝度が減少し、その減少はDMSOやaminoguanidineにより完全に抑制された。また、Western Blot法で大腸粘膜iNOSタンパク発現を検討した結果、DSS3目群に結腸下部と直腸で増強し、その増強は7日群まで増大した。 以上より、DSS惹起大腸炎の発症段階において、結腸下部と直腸で発現したiNOSタンパクが上皮細胞内でのレドックス変動に寄与し、大腸炎の進展に伴って組織学的傷害が増悪し細胞内のみでなく細胞外でもレドックス変動が起こっていることが示唆された。
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