前年度までに、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)惹起大腸炎マウスにおいて、DSS処置5日群では、結腸下部と直腸で発現したiNOS蛋白が上皮細胞内でのレドックス変動に寄与し、直腸で上皮傷害が認められ、DSS処置7日群では結腸全体で上皮の欠落が起こり、細胞内のみでなく細胞外でもレドックス変動が生じていることを明らかにした。しかし、実際に大腸粘膜で発現したiNOSから産生したNOが、DSS惹起大腸炎マウス体内のレドックス変動に寄与するか否かは不明である。 そこで、グリース法で大腸粘膜中のNO産生(硝酸塩と亜硝酸塩)を評価した結果、5日群では結腸下部と直腸で増加し、7日群では、結腸下部と直腸での増加が更に亢進したことから、iNOSタンパク発現の結果と一致しており、確かに、結腸下部と直腸で発現したiNOS蛋白から産生したNOが上皮細胞内でのレドックス変動に寄与することが示唆された。 また、ニトロキシルプローブ剤のオーバーハウザーMRI(OMRI)画像輝度減衰とフリーラジカルとの定量的関係について、詳細に検討した報告例はない。そこで、NO発生系としてNOC7を用い、各種プローブ剤とNOC7より産生したNOとの反応性を、XバンドESRで検討した。その結果、プローブ剤は直接NOと反応せず、プローブ濃度より高濃度の電子供与体が存在する場合にのみ反応すること、その減衰速度はいずれのプローブ剤も同程度であることが示唆された。さらに、NOC7濃度を変化させると、プローブの減衰速度はMGD鉄錯体を用いたスピントラップ法で定量したNO産生速度と相関することが示され、プローブ剤のOMRI減衰速度を指標にNO産生の半定量的評価が可能であることが示唆された。 以上より、オーバーハウザーMRIを用いて、DSS惹起大腸炎の進行に伴い発現したiNOS蛋白からNOが産生し、大腸上皮傷害に関与することが示された。
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