プラズマ表面処理を利用したポリスチレン(PS)表面への細胞接着性インターフェイスの導入について検討した。前年度までに調製したビニルメチルエーテルーマレイン酸共重合体固定化PS(PS/VEMAC)表面のカルボキシル基を介して、フィブロネクチンの細胞接着ドメインにおけるアミノ酸配列RGDを含むペプチドGRGDSを固定化した。その表面におけるモデル細胞PC12の接着性及び増殖性はPS/VEMAC表面と比較して顕著に増大した。また、プラズマ照射条件等のPS/VEMAC調製条件の最適化により、ペプチド固定化PS/VEMAC表面における細胞接着性・増殖性を、細胞外器質(ECM)タンパクがコーティングされた器材表面と同程度まで増大させることができた。この結果は、ペプチド固定化PS/VEMAC表面が人工的なECMとして機能していることを示唆するものである。また、更なる高密度のペプチド集積化を目指し、PS器材表面におけるポリアクリル酸(PAAc)グラフト層の構築を試み、プラズマ照射PS表面に生成するラジカルの酸化によって導入されるヒドロキシル基を介して、原子移動ラジカル重合法(ATRP)により鎖長の整ったPAAcのグラフト層を構築することができた。カルボキシル基と複合体を形成するトルイジンブルー0を用いて表面カルボキシル基密度を測定した結果、PAAcをグラフトした表面では、PS/VEMAC表面の約5倍のカルボキシル基密度が検出され、その表面にGRGDSを固定化した基板では、GRGDS固定化PS/VEMAC表面よりも有意な細胞増殖が認められた。このPAAcグラフト層の密度と鎖長はプラズマ照射条件とATRP条件によって制御できると考えられ、それらの最適化により高い活性を有するインターフェイスの構築も可能になると期待できる。
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