本研究の目的は、新規バナジウム化合物VO(OPT)による脳虚血後の神経細胞新生促進作用のメカニズムと神経新生と認知機能改善効果の関わりを明らかにすることである。研究代表者はこれまでの研究で、VO(OPT)もオルトバナジウム酸と同様に細胞の生存シグナルであるAktとERKを活性化する事を明らかにした。また、平成19年度の実験で既にバナジウム化合物の神経新生促進作用を確認した。VO(OPT)の特徴として新生ニューロンの産生数を増加させるだけでなく、新生ニューロンの移動・成熟にも影響することが示唆された。現在、未成熟なニューロンのマーカーを用いてVO(OPT)により新生ニューロンの移動が促進されているか定量的に検討を行っている。また、平成19年度はバナジウム化合物により活性化されるAktとERKがニューロン新生の起こる海馬歯状回でも活性化されていることをそれぞれのリン酸化抗体を用いて、ウエスタンブロット法にて検討をした。その結果、VO(OPT)の投与により、歯状回においてAktとERKが活性化していることを明らかとした。平成20年度は、新生細胞においてAktとERKが活性化しているか免疫染色を用いて定量的に解析を行う予定である。また、AktとERKの特異的阻害剤を脳室内投与し、より詳細な機構の解明を図る。歯状回顆粒細胞下層で新生した神経細胞が学習・記憶形成に重要な役割を果たしていることが示唆されている。最終的に、VO(OPT)により亢進した神経新生が個体レベルで効果を示すか、行動薬理学的解析によって高次脳機能を解析する。
|