PUFAが欠乏すると、知能発達障害、皮膚障害、視覚障害、さらには免疫機能障害から心血管機能障害まで様々な病態、疾患を引き起こす。これらの中にはプロスタグランジンなど脂質性メディエーターの欠乏で説明できるものもあるが、脳神経系の発達等については、アラキドン酸代謝物だけでは説明できず、PUFAが他にも重要な機能を果たしていると考えられる。PUFAはリン脂質に多く含まれており、柔軟な膜を形成することから、特に膜タンパク質の機能発現に重要な役割を果たしていることが予想されている。しかしながら、実際にどのような分子がPUFAを豊富に含む膜環境を要求するか、これまでほとんど明らかになっていない。 研究代表者は機能発現にPUFAを要求する分子を網羅的に探索するため、「野生株にRNAiしても表現型を示さないが、PUFA欠損株に同様のRNAiを行うと著しい表現型を示す遺伝子」を探索しており、これまでに細胞内小胞輸送に影響すると考えられる23遺伝子を同定した。これらの細胞内局在を解析したところ、PUFAを欠乏した変異体において、膜タンパク質と考えれる機能未知分子Xの細胞内局在が著しく変化することを見出した。この局在変化はPUFAの添加によりレスキューされたことから、本分子の適切な局在維持にPUFAを含む膜環境が必要であると考えられる。さらに、本分子の変異体を作製し、生理機能を解析したところ、この分子が特定の小胞輸送に必須の分子であることが明らかになった。 これまでPUFA欠乏状態によって引き起こされる膜環境の変化が、どのような分子に影響を与えるか不明であった。本研究により同定した分子は進化的に高度に保存された膜タンパク質であり、哺乳動物においても機能発現にPUFAを豊富に含む膜環境を要求すると考えている。
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