アミロイドβ蛋白(Aβ)はアルツハイマー病(AD)患者脳内に蓄積する老人斑の主要構成成分であり、Aβの産生を担う酵素γセクレターゼは、AD予防・治療薬の開発において、重要な創薬ターゲットとなると考えられる。しかしγセクレターゼはAβ前駆体タンパク質(APP)を切断するとともに、Notchタンパク質も切断する。Notchの切断は多様な組織の分化・生存を制御することが報告されており、単純なγセクレターゼの阻害は重篤な副作用を誘発する。そのためγセクレターゼをターゲットとしたAD創薬には、APPとNotchの切断活性の分子機構を解明が重要である。これまでに我々はショウジョウバエ培養細胞を使ったRNAiによる遺伝子ノックダウンにより、ゲノムワイドなスクリーニングを行い、γセクレターゼの活性を制御する18個の遺伝子候補(gamma secretase modulator: GAMMO)を同定していた。本年度は特にNotchの切断を特異的に制御し、種間で保存性の高いGAMMO3に注目して詳細に検討した。GAMMO3は4回膜貫通タンパク質であり、その酵母ホモログはER-Golgi間輸送において可溶性タンパク質の選別輸送に関与していることが報告されている。我々はショウジョウバエGAMMO3のRNAiにより、Notchタンパク質の形質膜への輸送が不全になるなど、GAMMO3がNotchの選別輸送に関与していることを明らかにした。現在GAMMO3が実際にin vivoでのNotch切断を制御しているか、GAMMO3ノックアウトショウジョウバエ・線虫を作成して解析を行っている。またAD創薬ターゲットの同定を目指して、APPやγセクレターゼの細胞内輸送を制御する因子の探索も同時に行っており、GAMMO3関連因子や他の候補因子について解析を行っている。
|