当該年度においては、当初の実験計画に則り野生型と遺伝子改変マウスの脳組織においてリン酸化の程度が異なるタンパク質を同定するための実験系の確立を目指し、これに成功した。すなわち、野生型マウスおよび解析対象であるジャンクトフィリン-3/-4ダブルノックアウトマウス(JP-DKOマウス)の小脳からリン酸化タンパク質を精製し、蛍光標識二次元電気泳動法により展開した後、リン酸化の程度に変化がみられたタンパク質スポットを切り出し、質量分析により該当タンパク質を同定する実験系を確立した。現在再現性良くリン酸化の変動が見られる分子の検索・同定を試みている段階である。また、リン酸化によるシナプス伝達可塑性制御には当然遺伝子発現の変動が伴うことが予想されるため、当初の実験計画に加えて、野生型およびJP-DKOマウスの間でRNAレベルにおける発現量に差が見られる分子の同定を試みた。この目的でマイクロアレイ法およびリアルタイムPCR法による解析を行ったところ、脳内で神経可塑性を調節する因子としての機能が示唆されている転写因子Early growth responce-1(Egr-1)、およびEgr-1によって発現誘導されるフィードバック阻害因子であるNab2とよばれる転写抑制因子両者の発現がJP-DKOマウス小脳において特異的に低下していることを明らかにした。これらの知見は、中枢神経細胞におけるカルシウムシグナル伝達とリン酸化および遺伝子発現をつなぐ新たな可塑性制御機構を解明する糸口となる成果であると考えられる。
|