細胞周期あたり一回だけDNA複製を開始させる制御機構において、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)が主要な役割を果たしていると考えられているが、そのターゲット分子(CDKによりリン酸化される複製関連蛋白質)は充分に理解されていない。一方我々は、複製開始蛋白質のATP結合による活性制御という観点から、この複製開始制御機構を研究してきた。我々はまず大腸菌において、複製開始蛋白質DnaAにATPが結合することにより複製が開始されること、及びDnaAの内在性ATPaseが2回以上複製が開始されるのを抑制していることを見出した。次に我々は真核生物の複製開始蛋白質ORCのATP結合を解析し、Orc5p(ORCを構成するサブユニットの一つ)へのATP結合が、細胞内でのORCの安定化に寄与していることなどを見出した。一方我々は、Orc2p、及びOrc6pがCDKによりリン酸化されることから、このリン酸化の役割を検討し、Orc2p(特に188番目のセリン残基)がリン酸化されると、DNA複製を開始出来ないことを見出し、G1期におけるCDK活性の低下が複製開始反応の進行に、S/G2期におけるCDK活性の上昇が再複製の開始抑制に寄与していることを示唆した。さらに我々は、Orc2pがリン酸化されると、Orc5pにATPが結合できなくなることを生化学的に示すことに成功した。以上の結果は、CDKによるORCのリン酸化がOrc5pへのATP結合を制御することにより、細胞周期の進行を調節しているという全く新しい可能性を示しているので、今後研究を進める。
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