N-結合型糖鎖は、インテグリンを介するシグナル伝達に重要であり、その糖鎖構造は多様性に富むことが知られる。また、最近にわかに、糖鎖自体の機能も注目されてきており、特定の構造の糖鎖が神経突起を伸長させたり、リンパ転移がんを抑制することが知られる。しかし、インテグリンβ1鎖の糖鎖構造と機能に関してはほとんど、不明である。本研究の目的は、インテグリンα5β1の機能糖鎖モジュールを用いて、がん転移抑制に繋がる薬剤のグランドデザインを構築することである。すなわち、部位特異的な糖鎖構造を明らかにし、26本以上も付加されている糖鎖がインテグリンの細胞膜へのターゲッティングや接着・シグナルといった本質的な機能に関わるか検討し、その特異的な糖鎖構造を用いることでがんの浸潤のコントロールをめざすことである。部位特異的変異を導入し、インテグリンβ1鎖の糖鎖に変異を導入したcDNAをインテグリン欠損細胞に導入し、この細胞の接着能、移動能について検討した。インテグリンβ1鎖のI-ドメインに3本付加している糖鎖に変異を導入すると接着活性が低下し、逆に他のドメインの糖鎖を欠損した変異体は細胞接着の活性を保持した。従って、インテグリンβ1鎖の糖鎖は蛋白発現やその機能に重要であることが分かった。さらに、α5鎖の糖鎖変異体とここで得られたβ1糖鎖変異体を細胞に共発現すると両者は二量体を形成することが分かった。
|