研究概要 |
1. 小胞体関連分解(ER-associated degradation : ERAD)は,小胞体の変性タンパク質を小胞体から細胞質に排出し,ユビキチン-プロテアソーム系により分解する小胞体ストレスに対する防御機構である.ERADに関与するユビキチンリガーゼHRD1は,アルツハイマー病(AD)の原因タンパク質β-amyloid (Aβ)の前駆体タンパク質(amyloid precursor protein : APP)をユビキチン化し,分解促進することで,Aβの産生量を低下させる.今回私たちは,小胞体ストレス応答転写因子ATF6とXBP1がAPPの分解を促進し,Aβの産生を減少させることを見出した.また,このAPPの分解がERADを介したタンパク質分解であることを示し,変性したAPPが選択的に分解されることを明らかにした.これらの結果より,ATF6やXBP1を介したERAD誘導薬が,ADの治療薬となりうる可能性が示された. 2. AD患者脳におけるHRD1の発現量について健常者と比較したところ,AD患者の大脳皮質において,HRD1タンパク質量の有意な低下が認められた.一方,AD患者において,GRP78 (Bip)およびCHOP mRNAの有意な増加が認められ,HRD1を含む他の小胞体ストレス応答遺伝子のmRNAも増加傾向にあったことから,AD患者脳が小胞体ストレス状態であることが判明した.また,HRD1タンパク質の減少は,mRNAの低下によるものではないことが明らかとなった,これらの結果より,ADの発症にHRD1タンパク質の減少と小胞体ストレスが関与する可能性が示された. 3. APPの分解に関与するHRD1以外の新規ユビキチンリガーゼを見出し,APPと結合することを明らかにした.このことより,HRD1以外にもAPPの分解に関与する分子が存在し,ADとの関連性を明らかにする必要性を新たに示した.
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