ハブ毒は血液凝固阻害、血管内皮細胞の破壊、血小板凝集阻害などが主な作用の出血毒である。本研究では、セリンプロテアーゼやメタロプロテアーゼなどの酵素群や、C型レクチン様タンパク質やプロテアーゼインヒビターなど血小板凝集阻害、血液凝固阻害に関わると推察される新規分子をコードする遺伝子を多数同定している。その一つである新規セリンプロテアーゼインヒビターは、外因系血液凝固インヒビター(TFPI)や吸血性ダニIxodes scapularis唾液に含まれる抗血液凝固分子Ixolaris等と相同性を有しており、TFPIやIxolarisと同様に、外因系血液凝固阻害に関わる可能性が考えられることから、現在組み換え型タンパク質の発現・精製を行うとともに、生理活性(血液凝固阻害、外因系開始阻害)の同定を試みる予定である。また、新規なスロンビン様セリンプロテアーゼは、血漿中のフィブリノーゲン分解やキニノーゲンからのブラジキニン(血管拡張、血圧低下や疼痛惹起作用を有するペプチド)遊離により、出血・血管透過性亢進に関わると考えられる。現在組み換え型タンパク質発現と精製を行うとともに、合成基質及びフィブリノーゲン分解活性の確認を行っている。これら分子の解析は、ハブ毒の作用・動態の理解や多様性獲得機構という生物学的知見としてのみならず、血液生化学用研究試薬や臨床検査薬、抗血栓剤開発への生物資源探査においても、興味深い研究である。
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