本年度の研究計画のうち、特に核内転写因子であるNF-ATの活性化に着目して研究を進めた。同転写因子は、マスト細胞の高親和性IgE受容体(FcεRI)の架橋によって発現が顕著に誘導されるIL-4等のサイトカインやmonocyte chemoattractant protein (MCP)-1等のケモカインの発現に重要な役割を果たしており、本因子の活性化を指標とする、マスト細胞のネガティブおよびポジティブシグナルの定量システムを確立することは、本研究を遂行する上で重要な意味を持つ。具体的には、抑制性受容体FcγRIIBを発現させる際に用いたものと同じラットの培養マスト細胞株RBL-2H3細胞に、NF-AT依存的にルシフェラーゼの発現が増加するレポーター遺伝子を安定的に組み込んだ新しい細胞株、RS-ATL8細胞を樹立した。本細胞株は、ヒトFcεRIも同時に安定発現させてあるため、ヒト血清等のIgEにより感作することができ、さらにその架橋によってNF-ATが活性化されるとルシフェラーゼを発現し、高感度な定量を可能とするメリットを持つ。実際に精製IgE、健常人血清中IgE、アレルギー患者血清中IgEなどの検体を用いてRS-ATL8細胞を感作し、抗IgE抗体および特異抗原により刺激したところ、刺激に用いたリガンドおよび感作に用いたIgEの両方に依存したルシフェラーゼ発現を高感度に測定することができた。この手法は、マスト細胞のネガティブシグナルの新しい解析システムとして利用できるのみならず、in vitroのアレルギー試験法としての応用にも有用であると期待される。
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