肥満を始めとした生活習慣病の多くは、過剰なエネルギーが白色脂肪細胞に蓄積され、適切なエネルギー消費が行われないことに起因する。その為、効果的な治療法、予防法を開発するためには、まず何よりも脂肪細胞の成り立ちや機能制御のメカニズムを正しく理解することが必要である。そこで本研究では、ラットの体内に存在する白色および褐色脂肪細胞の初代培養系を用いて、両脂肪細胞の増殖、分化、成熟の各過程に関与する遺伝子および機能性RNAを網羅的に同定し、脂肪細胞RNA発現データベースの構築を目指し、以下の検討を行った。 平成19年度の検討では、ラットの副睾丸白色脂肪細胞および肩甲骨間褐色脂肪細胞を対象として、未分化、分化誘導時、成熟過程、成熟後の初代培養細胞からtotal RNAを抽出し、microarray法によりmRNAおよびmicroRNA (miRNA)の発現プロファイルの網羅的な解析を行った。その結果、副睾丸白色脂肪組織あるいは肩甲骨間褐色脂肪組織から単離した未分化細胞において、顕著に発現レベルの異なるmRNAが3500種類以上同定され、さらに、分化誘導過程や成熟過程においても両者に共通の発現変動を示すmRNAあるいは各々の脂肪細胞に特異的な発現変動を示すmRNAが多数同定された。また、現在、同定されている全てのmiRNAの発現プロファイルを解析可能なmicroarrayを用いて、上記の白色および褐色脂肪細胞におけるmiRNA発現を解析したところ、mRNAほど顕著な相違は認められなかったが、両者に共通して大量に発現するmiRNAや各々の脂肪細胞に特異的な発現変動を示すmiRNAをいくつか同定することに成功した。 これらの知見は、白色および褐色脂肪細胞の機能制御をターゲットとするRNA創薬において非常に有用であり、現在、同定されたmRNAおよびmiRNAが、各々の脂肪細胞の機能に及ぼす影響について詳細な解析を進めている。
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