肥満を始めとした生活習慣病の多くは、過剰なエネルギーが白色脂肪細胞に蓄積され、適切なエネルギー消費が行われないことに起因する。その為、効果的な治療法、予防法を開発するためには、まず何よりも脂肪細胞の成り立ちや機能制御のメカニズムを正しく理解することが必要である。そこで本研究では、ラットの体内に存在する白色および褐色脂肪細胞の初代培養細胞を用いて、白色および褐色脂肪細胞の増殖、分化、成熟に関与する遺伝子および機能性RNAを網羅的に同定し、未だ不明な点が多い白色および褐色脂肪細胞の共通点、相違点を明らかにすることを目的として検討を行った。 白色および褐色脂肪細胞の初代培養細胞から調製したRNAサンプルを用いたmicroarray解析の結果、両細胞において発現量に10倍以上の差がある遺伝子は、増殖・分化・成熟いずれの時期においてもおよそ300種類存在し、そのうち全ての時期で10倍以上の差がある遺伝子が57種類同定された。これらの遺伝子について機能的な分類を行ったところ、発生や幹細胞の分化の過程で重要な役割を果たすことが報告されている転写調節因子が多数含まれることが明らかになった。 特に、Lhx8、Tbx15、ziclは褐色脂肪組織由来の細胞で、またTcf21は白色脂肪組織由来の細胞で分化や成熟の時期に関わらず特異的に発現していることが判明し、白色および褐色脂肪細胞は分化の過程で一部共通のメカニズムを有しているものの、本質的に全く異なる細胞であることが強く示唆された。以上のことから、本研究のような初代培養細胞を用いたinvitro解析は、白色および褐色脂肪細胞の本質的な相違点を遺伝子レベルで解明する上で非常に有用な手法である言える。(現在、論文投稿中)
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