様々な機能を持った蛍光物質は、現在多くの分野の科学研究において必須な実験ツールである。例えば、生体内の特定の受容体に選択的に結合する小分子、すなわちリガンド分子を蛍光団でラベル化した「蛍光ラベル化リガンド」は、ターゲットとなる受容体蛋白質の局在を明らかにすることや、未知の受容体を同定するために有用な機能性蛍光物質である。しかしながら、蛍光ラベル化リガンドの多くは、対象となる受容体に対する結合の前後で蛍光シグナルが変化しないことが多いため、受容体に結合したリガンドの蛍光のみを検出したいときには、洗浄や分離などの操作が必要であった。本研究では、こうした洗浄、分離操作を必要としない、受容体に対する結合前後で蛍光特性が大きく変化する機能を持った蛍光ラベル化リガンド分子の開発に有用な「環境応答型蛍光団」の開発を行い、種々のリガンド分子の蛍光ラベル化に適用することを目指す。 本年度はまず、環境応答型蛍光団の開発を行った。開発を行う蛍光団の構造は、疎水性の高い蛍光物質-リンカー構造-消光物質より構成される。水溶液中では、蛍光物質は消光物質と会合し、消光するが、ある程度疎水的な環境におかれると、会合による消光が解消され蛍光強度が増大する、という機構により環境応答能を持つことを期待して、最適な蛍光物質と消光物質のペアの探索を行った。種々の蛍光物質と消光物質を組み合せた化合物を合成し、その蛍光特性を検討した結果、蛍光物質としてCy7、消光物質としてDabcy1を用いた化合物が、最も環境に対する蛍光応答が大きいことを見出した。また、こうした機能性蛍光物質を開発するために有用な、クマリン骨格をベースとした蛍光物質ライブラリーの構築も行った。
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