運びたい生理活性物質を、運びたい細胞に選択的に送達させる技術は、ドラッグデリバリー研究分野のみならず、創薬化学及びケミカルバイオロジーを含めた様々な分野で必要性が高い。本研究課題は、癌細胞選択的な薬物送達を目指し、細胞膜上の糖鎖を認識し高効率に細胞内へ移行する膜透過性アルギニンペプチドに、癌細胞に高発現している受容体に結合するペプチドを配列中に組み込むことで、新しい薬物送達ベクターを創出することが目的である。癌細胞に高発現しているトランスフェリン受容体(TfR)を標的とし、ファージディスプレー法によって見出されたTfRに親和性の高いペプチド配列(TfRbp)と、膜透過性アルギニンペプチドとの結合体(TfRbp-R)を調製することで、TfRターゲティングの可能性に関して検討を行なった。蛍光ラベルしたTfRbp-Rの細胞内移行性を、共焦点顕微鏡を用いて検討した結果、ヒト子宮頸癌由来のHeLa細胞において、血清含有培地を使用した場合でも、TfRbp-R(5μM)は高効率に細胞膜を通過し、サイトゾルへ短時間(10分)で移行することが観察された。一方で、TfRbp配列のみの場合では、細胞内移行量が低く、しかもエンドソーム内にトラップされており、TfRbp-Rの場合と比較してサイトゾルへ移行したペプチド量が低い様子が観察された。また、siRNAを用いてTfRの発現量を抑制することによって、TfRbp-Rの細胞膜透過性は著しく減少したことから、ペプチドがTfR依存的に細胞膜を通過していることが確認された。本研究結果は、膜透過性アルギニンペプチドを用いて、特定の受容体標的化が可能であることを示唆するものである。
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