研究概要 |
S-4デアジル-L-ボモシステインヒドロラーゼ(SAHH)の阻害剤の一種である プラノシンAが、マラリア原虫の増殖を阻害するという報告がなされて以来、マラリアに対する化学療法剤の標的として、マラリア原虫由来SAHH(PfSAHH)が脚光を浴びてきた。そこで、PfSAHHに対し強力かつ種選択的な新規抗マラリア薬を開発することが本研究の目的であり、その手段として、各種阻害剤との複合体の立体構造をX線結晶構造解析の手法により決定し、PfSAHHを強力かつ選択的に阻害する化合物のデザインを目指す。既存の核酸型SAHH阻害剤(Ado類似体)は、PfSAHHの活性部位の半分強を占有するが、Hcy結合部位に空間が残されているため結合が強くない。また、哺乳類由来SAHHにおいても結晶構造解析がなされているのはヌクレオシド型阻害剤との複合体のみであり、種を問わず、SAHHのHcy結合部位は同定されていない。本研究では、(1)PfSA田に対し、Ado, Hcyが同時に結合することはできないが、5'-位を短くしたAdo類似化合物であるノルアリステロマイシンとHcyならば、同時にPfSAHHに結合する。したがって、PfSAHH/NAM/Hcyの3成分複合体結晶を調製し、その立体構造決定によりHcy結合サイトを同定する。(2)PfSAHHとヒト由来SAHHの構造比較の結果、PfSAHHのAdo結合部位のアデニン環2位近傍には、ヒトSAHHには無い「くぼみ」があった。NAMのアデニン環2位にフッ素を導入した2-F-NAMは、ヒトSAHHへの阻害能を失ったが、PfSHHに対する阻害能は維持していた。そこで、PfSAHH/2-F-NAM複合体の立体構造を決定し、アデニン環2位への官能基導入が実際にPfSAHH特有の「くぼみ」を埋め選択性に寄与しているのか否かを検証し、阻害剤の種選択性向上のための立体構造情報を得る。
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