研究概要 |
本研究は、悪性化がん細胞を選択的に殺滅する副作用の少ない新規遺伝子治療法の確立のため、低酸素応答性転写因子によりP2X_7受容体(細胞外ATP依存性細胞死を誘導)を悪性がん細胞特異的に発現させ、高悪性化がん細胞を選択的に殺滅する新規遺伝子発現治療法の確立を目標としている。 本年度は、がん細胞におけるP2X_7受容体過剰発現による抗がん作用について検討した。まずB16F10メラノーマにマウスP2X7受容体を安定的に高発現させた細胞株を作製した。野生株(WT)、高発現株(C1)およびMock株(C3)をC57BL/6マウスの後肢に移植し、1ヶ月間観察した結果、WT,C3に比べてC1において著しいがん組織の成長が認められた。この成長促進はP2X7受容体阻害薬をマウスに投与することによって阻害できた。 以上の結果より、P2X7受容体発現は、がんの成長促進に関与していることが明らかになった。今後、P2X_7受容体を用いた遺伝子治療を考える際には、P2X_7受容体発現を上げるのではなく、P2X_7受容体の活性を下げる必要がある。そのため、HREベクターに発現させる遺伝子は、P2X_7受容体に対するsiRNAに変更し、がん細胞特異的にP2X_7受容体をノックダウンできるベクターにより抗がん作用を検討していきたい。一方、細胞死を誘導するP2X_7受容体が高発現すると、むしろがんの成長を促進してしまうという結果は大変興味深い知見である。P2X_7受容体のがんにおける生理的意義を解明するためにも、そのメカニズムの解明が急務となる。
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