研究概要 |
近年、ヒ素の毒性が活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)生成と深く関与しているという見方が強くなってきた。この細胞内でのROS産生は、ヒ素によるアポトーシスや発癌とも関係していると考えられ、現在多くの研究者の注目を集めている。しかしながら、このROS産生が細胞内の「どこで」「どのように」起こっているのか、といった詳細な分子メカニズムは未だ明らかではない。申請者はこれまでに、このヒ素暴露によるROS産生に関して、i)ヒ素の価数や化学形態によってROS産生能は大きく異なること、ii)ROS産生能が特に大きいmonomethylarsonous acid(MMA^<III>)ではそのROS産生はミトコンドリアに局在していること、を明らかにしてきた。このことからヒ素化合物はミトコンドリアのROS産生系を亢進させることにより酸化ストレスを惹起していることが示唆される。本年度においては、dimethylarsinous acid(DMA^<III>)による酸化ストレス障害はミトコンドリアよりもむしろ小胞体に局在していることから、DMA^<III>と小胞体ストレスとの関連を検討した。その結果、DMA^<III>は他の化学形態のヒ素化合物よりも小胞体ストレスマーカーを遙かに強く活性化したことから、小胞体ストレス誘発による酸化的障害の誘導はDMA^<III>に特有の毒性であることを明らかとした。この小胞体ストレスの増悪と、DNA障害の指標である核内8OHdG量とに相関がみられたことから、ヒ素の代謝中間体の一つであるDMA^<III>がヒ素曝露による発癌過程に関与している事が示唆された。
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